Photo by Takayuki Monma

論文・論説

北海道の自然 第50号 私たちは北海道のどんな森林自然を周りに見てきたのか? 春木雅寛著

発行元:一般社団法人 北海道自然保護協会

発行年月日:2012年3月1日

内容:北海道の森林植生は植物地理学的に特異なものである。日本やアジアにおける位置づけは、先人達による1800年代からの森林植物調査により、樺太(サハリン)、千歳列島、極東アジア、ヨーロッパとの相同性、違いについて各地の植物の種、属、科レベルで検討されてきた。その結果、先人の研究成果を評価してその名を冠したシュミット線(南北樺太の間の幌内川低地帯)、宮部線(北千島ー中部千島と南千島の間の択捉海峡)、さらに黒松内低地帯(北海道の渡島半島の北側付け根)に囲まれた地域(タテワキア)は南の温帯から北の亜寒帯への移行帯で、極東アジアを含む針広混交林と認識されるようになった。北海道の私たちを取り巻く森林自然について、著者の森林帯や森林生態学的な見方を通して、これを集大成した舘脇操先生の書かれた論文などから再検証するとともに、最近の植物地理学的な考え方の展開について触れた。

資料提供元:北海道自然保護協会

論文・論説

北海道の自然 第50号 北海道の森林管理の歴史・展開と課題 石井寛著

発行元:一般社団法人 北海道自然保護協会

発行年月日:2012年3月1日

内容:本稿は国有林と道有林のほぼ100年にわたる森林管理の歴史と展開過程を素描したものである。時期区分は戦前の森林管理、戦後の森林管理、1998年以降の現代の森林管理である。戦前の森林管理は御料林を除き、開拓行政に従属したものであった。戦後の森林管理は国有林も道有林も相対的に自律して森林管理を行った。1954年の風倒木被害の処理を契機にして、国民経済の需要増加に対応して、天然林の林種転換政策を採用して、増伐に踏み切った。しかし増伐体制は長く続かず、管理の方向を転換せざるを得なかった。また会計の収支も赤字に転落した。こうした森林管理に対して批判的な態度を堅持したのは東京大学北海道演習林であった。国有林は1998年から、道有林は2002年から公益性重視の管理に転換した。森林は地域環境資源であり、国有林も道有林も過疎化が急激に進む市町村の意向、特に地域振興面で果たす役割を自覚して管理にあたるべきである。

資料提供元:北海道自然保護協会

論文・論説

北海道の自然 第50号 『森林美学』から学ぶ森林管理の視点 秋林幸男著

発行元:一般社団法人 北海道自然保護協会

発行年月日:2012年3月1日

内容:19世紀初めにドイツで形成された林学では第一には、施業林(木材生産を目的に経営されている森林)の経済的効率と景観を形成する森林の美とは両立、または、二律背反の関係にあるのか、第二には森林美学は林学の一分野か、哲学の中の美学で扱うべきかを論じられた。そして、ドイツに留学した林学者たちが日本に森林美学を紹介し、東大や北大などで講義が行われてきた。ここでは、おもに今田敬一の論文「森林美学の基本問題の歴史と批判」に依拠して、第一にドイツの森林美学の確立者であるザーリッシュの「森林美学」の特徴、第二に森林生態系を重視した近代造林学とともに森林美学がどのように変わったのかを検討する。第三にドイツから日本に導入した森林美学の特徴を整理し、第四に北大の講義の基礎をなしたと思われる新島義直・村山醸造者の「森林美学」の独創性を検討した。そして、最後に日本の森林管理が直面している課題と森林美学から学ぶべき視点にふれたい。

資料提供元:北海道自然保護協会

論文・論説

北海道の自然 第50号 森―川―海のつながりと河畔林の役割 長坂晶子著

発行元:一般社団法人 北海道自然保護協会

発行年月日:2012年3月1日

内容:北海道の川では、落葉広葉樹を主体とした河畔林から供給される有機物を起点とした生きもののつながりを見ることができる。代表的な渓流魚であるヤマメ(サクラマス幼魚)は、蛾の幼虫やヨコエビなどを介してエネルギー源の40~70%を河畔植生から得ている。さらに海域に到達した落ち葉は、量的にわずかながら、海のヨコエビの餌となり、ヨコエビはクロガシラガレイ稚魚の餌として盛んに利用されている。一方、海の栄養を蓄えて川に戻ってくるサケマスの産卵後死体(ホッチャレ)は、川や陸上の食物連鎖に大きな影響を与えている。北海道ではこの10年間ほどのあいだにサケ遡上が復活している川が増えており、周辺生態系にどのような影響を与えているのか実態把握が急務である。また漁民による植樹活動を支持するような研究成果はまだ多くはなく、地域各々の生態系の個性も踏まえ、実態解明と事例の蓄積を進めていく必要がある。

資料提供元:北海道自然保護協会

論文・論説

北海道の自然 第50号 北限のブナ林 過去、現在、そして未来 齋藤均著

発行元:一般社団法人 北海道自然保護協会

発行年月日:2012年3月1日

内容:現在、日本のブナの北限は、北海道の渡島半島の付け根に位置する黒松内低地帯付近である。しかしブナの北限は、ずっと黒松内低地帯にあったわけじゃなく、最終間氷期(約13万年前~11.5万年前)以前には今よりもっと北(東)に分布していた時代もあった。最終氷期の最寒冷期(約1.8万年前)には、北緯38度(新潟県や福島県)付近まで南下したブナの北限は、その後の地球の温暖化に伴い北上し、津軽海峡を渡り約1000年前に黒松内低地帯まで到達したことがわかっている。明治30年(1897)に田中壌によりブナの北限が見出されてから、多くの研究者がブナの北限の謎を解明しようと研究をしてきた。特に、なぜ黒松内低地帯がブナの北限なのかという問題については、これまでに12もの学説があり、さらに、今年度もう1つ発表される予定である。現在もブナは北上の途上であろうという説が最も有力だと考えられているが、筆者は今後ブナが北上するには明治以降の開拓による森林伐採が大きな障害になっていると考えられる。

資料提供元:北海道自然保護協会

論文・論説

北海道の自然 第50号 北海道の森林に広がるエゾシカの影響 明石信廣著

発行元:一般社団法人 北海道自然保護協会

発行年月日:2012年3月1日

内容:エゾシカの増加によって、経済的な被害だけではなく自然植生への影響も大きくなっている。下層植生の成長量がシカの採食量を上回れば下層植生は維持されるが、成長量以上に採食されれば植生は急速に衰退し、植生を回復させるには生息密度を非常に低い水準にする必要があることが、モデルによるシミュレーションから予想されている。各地で稚樹の減少や消失、林床のササの小型化などが生じており、かつてはエゾシカの生息密度が低かった多雪地や渡島半島にも影響が広がっている。森林の樹木の世代交代の視点から、後継樹となる稚樹を維持できるようにエゾシカ個体群を管理する必要がある。シカの主な生息地は森林であり、森林管理によって失うことなく、次の世代に伝えられるよう、多様な関係者の協力体制の構築が望まれる。

資料提供元:北海道自然保護協会

論文・論説

北海道の自然 第50号 シマフクロウを守る施策と圧迫要因 早矢仕有子著

発行元:一般社団法人 北海道自然保護協会

発行年月日:2012年3月1日

内容:25年以上にわたる給餌と巣箱設置を中心とした国の保護増殖事業により、シマフクロウの減少傾向には歯止めがかかった。さらに生息環境復元を目指し、針葉樹の造林地を針広混交林へ誘導する森林施業も既に十余年継続されている。しかし一方で、給餌池や巣箱周辺の立ち入り禁止区域への侵入事例が発生したり、宿泊施設による無秩序な人為給餌がなされるなど、個体数の回復を妨げない事象が続発し、生息地非公開の保護方針が形骸化しつつある。これからの保護事業は、国のみが事業者であり続けるのではなく、地方自治体および地域住民と連携し、各生息地の状況に応じた保護策の立案と実施が肝要であろう。とくに、悪質な侵入者の立ち入り監視には、地域住民の力を最大限活用し、「我が町のシマフクロウ」を育むことが必要である。

資料提供元:北海道自然保護協会

論文・論説

北海道の自然 第50号 アイヌ口承文芸にみる神々の姿と樹木 安田千夏著

発行元:一般社団法人 北海道自然保護協会

発行年月日:2012年3月1日

内容:北海道の先住民アイヌが神である動植物をどのように考えているかについて、アイヌ口承文芸資料を通して考察することが筆者の研究テーマである。樹木神についての資料を見ると、様々な樹木の神格は同列に位置づけられているのではなく、明らかに樹種により違いが認められる。前段では、神格が高いとされる樹木神はどのような樹種であるのかを考えるために伝承の構成要素に注目した。そしてイヌエンジュ・ハルニレ・ドロノキの伝承を取りあげ、物語の梗概に要素がいくつ含まれるかについてみることとした。後段では、伝承にみられる神格の違いについて考察した。イヌエンジュとハルニレの伝承は、樹木神が主人公を助けるという重要な働きをする危機救済型伝承であり、同タイプの伝承は、これ以外にはエゾマツ・カツラ・ミズナラについての採録例があると確認できた。それに対し、一見このパターンに似ているように見えるが、実は決して神格が高い樹木として扱われていないのがドロノキの伝承であった。ドロノキはヤナギ科の先駆樹種であり、森の変遷における役割が前述で述べた樹種とは根本的に異なる。それが伝承パターンに現れた違いの要因になっている可能性を提示した。

資料提供元:北海道自然保護協会

論文・論説

北海道の自然 第50号 バイオマスとしての森林とその利用 山本幸一著

発行元:一般社団法人 北海道自然保護協会

発行年月日:2012年3月1日

内容:森林由来のバイオマスが注目される理由は、森林自体が持つ二酸化炭素を吸収する機能に加え、石油代替としてのカーボンニュートラル機能にあった。2011年3月の東日本大震災後、人々は、エネルギーの自立性・安全性の大切さを意識し、地域にある森林の様々な利点に目を向け始めた。折しも、2011年4月からは「森林・林業再生プラン」が動き出し、木材自給率(バイオマス利用を含めて)50%を目差し始めた。森林資源が豊富で、従来から木材自給率が100%を超えていた北海道・東北では、今、域内でバイオマス利用を含めた木材利用率を上げ、それを地域の諸産業の活性化に繋がる時期にさしかかっている。森林は多面的な機能を有するが、ここでは人間生活に必要な資源を提供する森林の機能の一つである、バイオマス資源の生産機能とバイオマス利用のあれこれ、および利用に当たって留意点などについて纏めた。

資料提供元:北海道自然保護協会

論文・論説

北海道の自然 第50号 ダム建設における流水の正常な機能の維持とは? 佐々木克之著

発行元:一般社団法人 北海道自然保護協会

発行年月日:2012年3月1日

内容:ダム建設の目的に治水と利水があり、利水の目的の中には灌漑用水と水道水に加えて「流水の正常な機能の維持」がある。この機能維持水がダムの総貯水容量に占める割合は様々だが、北海道の厚幌ダムでは45%、愛知県の設楽ダムでは61%にもなる。北海道のダムにおけるこの機能維持水の主たる役割は、渇水時のサケやサクラマスなどの魚類の遡上を助ける、というものである。しかし、これらの魚類は、進化の過程で渇水に対処する術を学んでおり、ダムによる魚類のための「流水の正常な機能の維持」は必要がない。この機能は必要がないので、その経済的効果を算出することができず、国交省が一般人には理解できない計算をしている。経済的効果を科学的に示すことができない、「流水の正常な機能の維持」のためとしているダム建設費を削除すべきである。そもそもダムは、魚の遡上障害となり、ダム下流では川底が泥化して、産卵場を失わせるなど、サケやサクラマスに大きな障害となっている。ダムが河川生態系に及ぼす影響を正確に把握して、ダムの在り方を再検討すべきである。

資料提供元:北海道自然保護協会

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